現代社会では、世の中のあちらこちらに、香料が使用されています。食料品はもちろんのこと、化粧品、薬品などなど、あらゆる香りに囲まれた生活をしています。どの空間にいても、香りのない空間はありません。現代では、そのほとんどは化学合成香料によるものですが、香料製造技術がなかった時代の古代の人々は、香りを植物や動物から抽出し、いろいろな場面で使用していました。
ここでは、植物からの香りについて書いていきたいと思います。アロマテラピーは植物から抽出される100%天然の精油というものを用います。動物から抽出される香りは、動物の生殖分泌物や体内の結石のようなものから抽出するために、抽出するのが大変であるうえ、近年では規制がかかっていたりしていて、一般に用いるのはとても大変です。
植物の香りのもとは、植物の油胞という小さな袋にたくわえられます。油胞の場所は植物によって異なり、花や葉、枝や根、果実や樹脂など様々なところにあります。植物にとって香りの油胞は2次代謝物で単なる老廃物と言われていますが、この香りの油胞は様々な働きをしています。
植物にとっての香りの働きには、昆虫や鳥類を引き寄せ、受粉したり種子を遠くに運んでもらったりする、誘引効果。匂いによって有害な昆虫や鳥類を避け、苦味によって摂食されることを防ぎ、カビや有害な菌が植物に発生するのを防ぐ、忌避効果。生存競争に勝つために、他の植物の種子の発芽や成長を止めたり抑えたりする、生存競争効果。汗のように精油を蒸発させて自分を冷却し、強い太陽の熱から身を守る働きをする、冷却効果などがあります。
このようにもともと持っている植物の香りの効果が、人体に影響を与えていると考えられています。古代から植物の香りは様々な方法で使われてきましたが、時代とともに香りの使い方は変化してきました。それは、人間の文化の発達と関連しています。
植物を人類が使用していたという一番古い発見は、1960年代前半アメリカのR.Solecki博士によってイラクの北部にあるシャニダール村の洞窟の発掘された、約6万年前の化石人類ネアンデルタール人の埋葬された墓から出土した、タチアオイという草花の花粉の跡といわれています。奥深い洞窟の中まで昆虫や風によって花粉が運ばれたとは考えにくいため、死を悼む人が死者に添えて埋葬したと推察された。この時代から植物を何らかの理由で人類が使用していたということでしょう。
古代、香りは神からの授かりものと考えられていたようです。 原始人が火を使うようになったころ、なんらかの木や植物を燃やした際に、香りが漂うことに気づいたときから、匂いというものを用いるようになったのではないかと考えられています。香り=Perfume(パフューム)の語源は、ラテン語の「Per Fumum」(煙によって立ち昇る)からきているといわれています。香りが煙とともに天にのぼっていくことから、まず、神に捧げるために香りが使われたようです。
香りの利用が歴史的に認められているのは、紀元前3000年ごろのメソポタミア文明の時代です。当時の粘土板に、世界最古といわれる薬の処方が発見されています。古代エジプトでは、神殿で乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)を焚いて神に捧げたといわれ、現存する壁画に香油の壷を神に捧げる人物が描かれています。パピルス文書には植物の香りの使用方法などが記されています。 そのころから、知らず知らずのうちにその香りのもつ成分による効能を使用していました。つまり、香りの歴史は植物療法の歴史でもあるのです。
次回は、実際にどのように植物の香りが使われてきたかについてです。
