21世紀に入ってから企業の環境問題への取り組みの必要性が指摘され、企業経営における環境対応の重要性は年々高まり続けています。
多くの企業はこれまでの売上げ至上主義から、経営課題やマーケティング戦略の中心に組み込まれるケースも増えるなど、その位置付けも大きく変化しています。
こうした背景には、環境対応に熱心に取り組む企業を積極的に評価していこうという市場や生活者の意識の高まりがあり、環境関連の企業情報発信は今後ますます大きな役割を果たしていくことは間違いないと言えるでしょう。
環境問題が人類にとっての最重要課題であることが社会の共通認識となった現在、企業の環境対応は経営の根幹にかかわるものとなっているのです。昨今の食品の賞味期限問題など、社会との真摯な対話が企業に求められている今日、企業の環境コミュニケーションはどうあるべきかを問われています。
食品業界をゆるがした食品の捏造事件によって、企業に社会的な責任が厳しく問われるようになり、CSR(Cor-porateSocialResponsibility)、つまり「企業の社会的責任」という概念が、企業経営にとって特に重要な指針となってきました。しかしこれらは本来あたりまえの事であり、社会的責任以前の問題として、企業の経営モラルの問題でもあるので分けて考える必要があるかもしれません。
前回コラムで紹介したグリーンコンシューマーの台頭は、低公害車、液晶テレビ、太陽光発電システム、ノンフロン冷蔵庫、あるいは環境ラベル表示がされている商品の売れ行きが好調であることからも明らかになっています。消費者層のイノベーター(先行者)と言われる人たちはが企業に期待しているのは「社徳」です。ここで言う"徳"とは、"公共の善"への内発的な情熱を意味するものです。また、市場においても、社会的責任を果たす企業を積極的に評価しようとする動きが活発化しており、企業を環境配慮度で峻別する「環境淘汰」の時代が始まっていると言えます。
かつては、企業と生活者の信頼関係は、商品やサービスそのものが持つ価値によって構築されていました。しかし、現在の生活者は「自分の消費生活が地球環境にどれだけ負荷をかけているのか」といったことを気遣うようになっています。特にグリーンコンシューマーは、「自分で自分自身をほめることが出来る消費行動」を志向するようになっています。つまり、利己的な欲求だけでなく、「利他」的な欲求を満たすことで満足感を得る消費者たちなのです。この人たちの価値観は「地球益」や「将来世代益」とも言うべき、新しい時代の価値観と言えるかもしれません。そして、企業にとっては、こうした生活者との対話によって、お互いの価値観が共有できる環境コミュニケーションを行うことが非常に大きな意味を持つ時代になっています。
企業や社会が変遷したのは京都議定書問題だけではなく、これまでの使い捨て社会や科学物質文明に対する疑問符がつき始めた「脱公害の時代」が出発点になっています。この時代を見ると、企業が行った広告キャンペーンの中では、人々に価値観の転換を促した「モーレツからビューティフルへ」に代表されるような提案型の企業メッセージに共感が集まりました。日本だけのことではなく世界中が猛烈な勢いで高度成長の時代へ突き進みました。
そして地球温暖化の問題が深刻化する90年代に入ると、企業が消費者の声を自らの環境対応に反映させていこうとする「環境対話」の時代となります。その先駆けとなったボルボの広告に掲載された「私たちの製品は、公害と、騒音と、廃棄物を生みだしています。」というメッセージは、多くの企業や消費者に大きな衝撃を与えました。かつては一方的だった広告が、生活者と双方向の関係を目指すコミュニケーションへと転換した時期と言えます。
今日の環境コミュニケーションの潮流は企業の経営戦略をも変えていきました。例えば、具体的な数値を挙げ、成果や目標といった事実を報告する環境広告の事例が増えるなど、イメージ型・理念型から、事実報告型・問題解決型の環境ソリューション型への変化が見られます。ある酒造会社では2001年に「環境配慮商品の広告表現についての配慮」に関しての詳細を規定しています。これには、環境配慮表示が示す対象範囲を明確にすること、環境面で強調する原材料の使用割合を明確にすること、環境面の効果をうたう場合には実証データによる表示の裏付けを必要とすること、「環境にやさしい」などの抽象的な表現は行わないこと、エコマークを表示する場合は設定理由がわかる表現を入れることが、明記されています。質の高い環境コミュニケーションを目指す企業として、高く評価されました。
また、環境イメージをマスメディアによって活用したB to C広告の急増です。環境コミュニケーションの訴求ターゲットも広がり、電気会社や自動車会社などの企業が、お正月や夏休みの時期に行った家族向けの環境広告の展開などは、画期的な動きだと思います。これらの媒体から一気に社会的関心が高まり、環境を意識したニュース的な広告が増加しました。画期的商品の誕生を伝えた自動車や燃料電池車の広告や、携帯電話会社の環境保全活動の報告キャンペーンなどは、その好例です。
持続可能な社会に向けた社会構造やライフスタイルの転換は、時代が抱える大命題である以上、環境コミュニケーションの発想の基点には、将来のあるべき姿を置くべきなのかもしれません。環境対応は先手が必要と解く人がいますが、これは事実だと思います。事後的に行動するのではなく、顧客ユーザーの関心や行政の法規制を予知し、将来起こりうるリスクに備え、全方向的に予見的行動を準備する姿勢が、企業の競争優位にもつながります。
企業にとって環境コミュニケーションは、株主や顧客、従業員やその家族、投資家、地域社会、NGO・NPO、行政、国際社会など、企業をめぐるステークホルダーは、ますます拡張していくでしょう。また一人の人間も、多面的な存在として社会とかかわっています。企業人であっても、ある時は家庭人であり、地域のボランティアの一員でもあります。これからの企業には、より多様なステークホルダーと価値観を共有することができるコミュニケーションが求められることでしょう。
企業の信頼を守るためには、語るべきファクトを自ら語り、社会に貢献する姿勢を堂々と伝える必要があります。環境コミュニケーションが、次の時代の社会を大きく変えていくことになるだろうと私は思っています。
